片頭痛について
日本人の片頭痛の有病率は約8%で、15~40歳代の女性に多いとされます。特に30歳代の女性では5人に1人が片頭痛を患っています。
片頭痛の診断は症状による診断が基本となり、頭痛発作が起こる前に症状(前兆)を伴うものと、伴わないものの2種類があります。
片頭痛の前兆があってもなくても、同じような頭痛が起こります。
片頭痛の痛みの特徴
通常お薬なしで経過をみた場合、4時間~72時間続きます。
- A)頭痛の起こり方
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- 片側性
- 拍動性(ズキン、ズキンと血管の鼓動に伴って痛みがある)
- 中等度~重度の頭痛(普段の頭痛とは違う)
- 体を動かすとより頭痛が悪くなる、入浴など血行が良くなると頭痛がひどくなる
- B)随伴症状
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- 吐き気、嘔吐がある
- 光に敏感になる、音に敏感になる
診断にはB)の項目が重要で、光や音に敏感になったり、吐き気や嘔吐で日常生活に支障をきたすようであれば、片頭痛の可能性は高いでしょう。
片頭痛発作の前兆(5分~時間)には以下のようなものがあります。
- キラキラした光・点・線が見えたり、逆に視界が暗くなったり見えなくなったりする(閃輝暗点と言われる視覚症状)。
- 肌がチクチクしたり、逆に感じにくくなる(感覚症状)。
- 言葉がうまくでない(失語性言語障害)。
- 脱力(運動失調)、耳鳴り、めまい、難聴、物が二重にみえる。
いずれの症状も一時的で、後遺症が残ることはありません。なお、他の脳の病気によらないことが条件になります。
私は、中学の頃から閃輝暗点を伴う片頭痛持ちです。
芥川龍之介も、同じく片頭痛に晩年悩まされたそうで、
短編小説「歯車」には、見事な閃輝暗点についての描写があります。閃輝暗点を経験したものならその詳細さ、正確さに驚くはずです。なぜなら、私自身、他の人に伝えようとしてもあれをなんと説明して良いのかなかなかわからなかったからです。
現代では、片頭痛による閃輝暗点であるとわかっていますが、当時はなぜそのような物が見えるかわからず、芥川を苦しめたと聞きます。
片頭痛の病態
片頭痛の原因は古くから研究されていますが、脳の血管や三叉神経終末を由来とする末梢起源説と脳幹由来(脳の深い部位)とする中枢起源説が提唱されているものの結論はでていません。また、片頭痛を起こすキッカケ(誘発因子)として、ストレス、精神緊張、月経周期、天候の変化、温度差、睡眠不足または過睡眠、アルコール、食べ物などがありますが、これらの誘発因子は共通するものではなく、個人によって異なります。食べ物ではワインやチョコレート、チーズなどが古くから言われてきましたが、個人差があるため、チョコレートが誘発因子でない場合にはチョコレートを食べても片頭痛はおきません。自分の片頭痛のキッカケが何なのか生活習慣を見直してみましょう。
全部に気をつけるとかえってストレスが溜まるよ!
- 片頭痛と似た疾患に緊張性頭痛があり、以下のような症状が特徴になります。
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- 両側性
- 圧迫感や締め付け感が主で拍動性ではない
- 強さは軽度~中等度
- ストレッチや入浴をすると良くなることが多い
- 吐き気や嘔吐はない
- 光過敏や音敏感はあっても、どちらか一方のみ
※他の脳の病気によらないことが条件になります。
吐き気を伴わず、片頭痛の特徴でもある視覚過敏や音過敏がなければ、緊張性頭痛の可能性が高いでしょう。
片頭痛の治療
頭痛の重症度や生活への影響度を考慮して、お一人お一人にあった薬を組み合わせて使用します
- 1. アセトアミノフェン、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
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カロナール®やロキソニン®などの薬局で購入できる市販薬もあります。片頭痛の程度が軽度の時に使用します。
- 2. 制吐剤(吐き気止め)
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プリンペラン®(メトクロプラミド)など吐き気を抑える薬を併用することで、片頭痛の症状を緩和することができます。制吐剤はロキソニン®などの一般的な消炎鎮痛薬だけでなく、トリプタンと組み合わせても効果があります。
- 3. トリプタン (5-HT1B/1D受容体作動薬)
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セロトニン受容体に作用し、片頭痛の発作時に起こる過度な血管拡張を収縮させることで血管を正常化させ、三叉神経終末から放出される痛みの原因となる炎症性物質を抑制することで頭痛を鎮めます。国内では5種類のトリプタン製剤が保険適応になっており(イミグラン®、ゾーミック®、アマージ®、レルバックス®、マクサルト®)、それぞれ有効性が実証されておりますが、効果はお一人お一人によって異なります。それぞれのお薬を比較検討する試験も行われていないため、お体にあったトリプタンを一緒に探していくこともあります。また、トリプタンには内服のコツがあるので使用法に気をつけましょう。
トリプタンの内服について
- 片頭痛の予兆・前兆時に内服しては効果がありません。
- 頭痛を感じ始めた初期段階に内服すると、最も効果が期待できます。内服するタイミングが大切になるため慣れるまでは、内服しているトリプタンに効果がないのか、内服するタイミングに問題があるのかを見極める必要があります。
- 1か月に10回程度の使用に抑えましょう。お薬が原因で頭痛を起こすことがあります。
片頭痛は、一旦起こると長時間にわたり生活に支障がでる病気ですが、正しくお薬を使い分けると、かなり症状を和らげることが可能です。市販薬しか服用したことのない方、片頭痛が出たら諦めていつも寝てしまっている方など、片頭痛でお困りの方は一度お気軽にご相談ください。
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)