帯状疱疹について
新型コロナウイルスワクチンの接種により、帯状疱疹が増えているのではないかということが時折ニュースになるため、目にしたことがある方もおられるかもしれません。
しかしながら、実は帯状疱疹自体は新型コロナウイルスが流行する前から増加傾向にあります。
どんな病気ですか?
皮膚に発赤や強い痛みがある小さな水疱(水ぶくれ)が帯状にできます。子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス・varicella zoster virus;VZV)が知覚神経節(神経の根)に潜伏し、ストレスや免疫低下などを理由に再び活性化し、神経炎を起こすことで発症します。永らく体の奥に居たウイルスが体の一部分で抑え込めなくなってしまい、皮膚に出てきて水ぶくれを起こしてしまう感じでしょうか。帯状である理由は、発症した知覚神経(感覚を伝える神経)の走行に沿って水疱が生じるためです。神経は背骨の中にある脊髄神経から左右対称に伸びて走行していることから、必ず左右どちらかにのみ疱疹がでます。頭から足まで、神経が走る部位のどこにでも発症しますが、多くは頭部から上半身に出現します。
帯状疱疹が発生するメカニズム
- 水痘(水ぼうそう)になります(成人は90%以上の方が一度は罹患しています)。
- 水ぼうそうは治っても、神経節に水痘ウイルスが潜伏します。免疫(抗体)がうまく働いている間は、ウイルスは体の奥でじっと潜んでいます。
- ストレスや免疫低下によって神経節に潜んでいたウイルスが活性化し、発症した神経の分布に沿って皮膚炎・水疱が出現します。
帯状疱疹は増えています
世界でも最大規模の疫学調査として、1997年に始まり現在も進行中の宮崎県全域で展開されている帯状疱疹患者を対象とした「宮崎スタディ」があります。その調査によると、帯状疱疹の発症率は1997年から2017年の約20年間で68.1%も増加しています。
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新型コロナウイルス感染症の流行やワクチン接種とは無関係に、帯状疱疹はもともと増加傾向にありました。推測されている理由は大きく二つあります。
第一に、社会の高齢化に伴って、免疫が低下する人が増えてきたためです。第二の要因としては、日常で水痘・帯状疱疹ウイルスと接触することが少なくなり免疫を増強(ブースト)する機会が減ったためです。
例えばワクチン接種では、複数回ワクチンを接種することで目的のウイルス(に似せた物質)へ触れる機会を増やし免疫を増強することが可能ですが、従来、水ぼうそうや帯状疱疹の免疫は水ぼうそうのお子さんとの関わりがその役割を担っていました。空気感染するウイルスですので、昔は知らないうちに自然とウイルスに触れる機会があったのです。
日本では、2014年より水痘予防接種が定期接種となり、水ぼうそうにかかる子供が激減しました。
以下は国立感染症研究所(2022年1月13日掲載)による水痘小児の発症数です。
2000年までは90%のお子さんがかかっていた水痘が2020年には10%まで低下しているのです。
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下のグラフは帯状疱疹の発症率を年齢別に調査したグラフです。
他の要因もあるかもしれませんが、水痘予防接種が定期化されて水ぼうそうにかかるお子さんが減ったことにより、周囲の大人がもともと持っている水痘ウイルスに対する免疫力を増強する機会が減ったため、成人の帯状疱疹が明確に増えていると推測されます。
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どんな治療を行いますか?
ウイルスの増殖を抑制する薬物(抗ウイルス薬)をできるたけ早く開始します。
内服薬はアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナビル等があります。
内服では効果が不十分な場合は同内容の点滴薬を使用することもあります。
後遺症について
10~50%の割合(定義によるため幅が広い)で帯状疱疹が治癒しても痛みが続き日常生活に支障がでることがあり、
帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)と呼ばれています。
帯状疱疹ワクチンの接種により、帯状疱疹だけでなく、このPHNの発症率を低下させられることが証明されています。
当院では、帯状疱疹の治療、帯状疱疹ワクチンのご相談や予防接種を行っております。
(PHNの治療はペインクリニックをお勧めしております)。
過去に帯状疱疹にかかったことがあるが、ワクチンはどうしたら良いのかなどお悩みの際にはお気軽にご相談ください。
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)