機能性ディスペプシアについて
どういう病気ですか?
「うまく消化管が動かない」、「胃と腸の連携が悪い」ことで、「胃もたれや腹痛、早期満腹感など心窩部(みぞおち)を中心に不快感をおこす病気です。
症状の原因として逆流性食道炎や胃潰瘍などの炎症が「無い」ことが特徴です。ディスペプシア(dyspepsia)は直訳すれば「消化不良」「胃弱」です。機能は英訳するとファンクション(function)で、機能性ディスペプシアは英語ではFunctional dyspepsia(FD)になります。
身近な病気です。
どのくらいの人がこの機能性ディスペプシアに悩まされているかは、統計の取り方によって大きく変わりますが、日本では健診者を対象に調査したところ11~17%の有病率であったと報告されています。不快な症状により生活の質を下げる病気ではありますが、様子をみて病院を受診しない人も多いため大規模な疫学的調査は難しい側面があります。
なお、機能性ディスペプシアの診療ガイドライン(2021年)によれば上腹部症状を訴えて病院を受診した人を対象にすると、45~53%の割合で機能性ディスペプシアであったと報告されています。つまり、胃カメラや腹部エコー検査・血液検査などの検査を行っても原因となる内臓の病気がない人が約半分だったという事になります。
どんな症状がありますか?
多彩な症状が起こり得ます。代表的なものとして下記のものが挙げられます。
- みぞおちの痛み、はり感
- 胃もたれ
- 少量の食事でも膨満感がある
- 吐き気、むかつき
- みぞおちの焼ける感じ(心窩部灼熱感)
- 食欲不振
機能性ディスペプシアの胃や十二指腸はどうなっているのでしょうか?
胃の主な役割は食べ物を「一旦貯めて」、「食べ物を細かく・柔らかくして」、「少しずつ適量を十二指腸に送り出す」ことです。機能性ディスペプシアでは、この働きが悪いことによって症状が出現します。
※左右にスクロールさせてご覧ください。
- 食べ物が入ってきても胃がうまく膨らまないため(弛緩障害)、すぐに満腹を感じてしまいます(早期満腹感)。
- 胃と十二指腸の協調運動がうまくいかなくなっています。胃から食べ物の排出が遅いと胃もたれや胃の重い感じ、胃からの排出が早すぎると腹痛が起こります。胃酸が十二指腸へ過度に流れ込み十二指腸の酸度が強くなったり、逆に腸液(胆汁)が十二指腸から胃内へ逆流しても胃痛や腹痛・みぞおちの不快感を生じることがあります。
- 胃酸の分泌過多や、胃・十二指腸の知覚過敏が腹痛の原因となることがあります。
上記全てが必ず生じているわけではありませんが、いずれかの障害により機能性ディスペプシアが生じると考えられています。
機能性ディスペプシアを発症する原因は?
様々な要因が推測されていますが、全ての機能性ディスペプシアの患者さんに当てはまるものはありません。多岐にわたる因子が絡み合っています。
※左右にスクロールさせてご覧ください。
① ライフスタイル
機能性ディスペプシアの患者さんは、普段の運動量が少ない方が多いと知られています。また、夜に何度も目が覚めるといった睡眠障害も関連性があります。
もともと機能性ディスペプシアの患者さんは、高脂肪食やハイカロリーの食べ物を避ける生活をされる事が多いですが、同じ量の脂肪分やカロリーを取った際に、健常者の方に比べて吐き気や腹痛が起こりやすいです。
② ストレス
脳と腸運動は密接に関係しており、「緊張やストレスがかかるとお腹が痛くなる」経験がある方も多いのではないでしょうか。自律神経がストレスにより調整がうまくいかなり機能性ディスペプシアを発症することがあります。
また、不安を感じる方に機能性ディスペプシアが多いことは以前から知られており、最近では新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより不安を感じている人に有意に機能性ディスペプシアが増えている報告があります。
③ その他
海外例が多く、日本人に当てはまるかは検討が必要ですが、幼少時の生育環境や家族歴に関連性がある場合があります。遺伝的要因が当てはまる方もいますが、機能性ディスペプシアの患者さん全体からみると少数でしょう。また、感染性胃腸炎(食中毒・ウイルス性胃腸炎)にかかると、治った後に機能性ディスペプシアを発症する事があります。
ワンポイント
ピロリ菌と関連がありますか?
ピロリ菌に感染をすると慢性胃炎(萎縮性胃炎)を発症します。機能性ディスペプシアは胃の器質的炎症が無いことが定義のため、ピロリ菌が原因となることはありません。
ピロリ菌に感染している患者さんが機能性ディスペプシアと似たような症状をおもちの場合もありますが、厳密にはピロリ菌関連ディスペプシアとして機能性ディスペプシアとは別に分類・治療を行います。
診断方法は?
機能性ディスペプシアは、胃潰瘍や逆流性食道炎などの症状の原因となる病気が「無い」事が定義ですので、症状に応じて原因として考えられる疾患の除外が必要です。
① 胃カメラ
胃がんや胃潰瘍、逆流性食道炎、慢性胃炎、ピロリ菌感染症などを調べます。
② 腹部エコー
胆石や膵臓がんなど胃腸以外の病気を調べます。
③ 血液検査
炎症所見(白血球・CRP)や肝臓・胆のう機能障害、甲状腺ホルモン(食欲不振)などを調べます。
原則として上記の検査で異常がなく、症状などを総合的に判断し「機能性ディスペプシア」と診断します。
しかしながら、実際は個々の患者さんの状況により、10代など明らかに他の疾患が無いと判断できる場合は検査に先行して「機能性ディスペプシア」として治療への反応をみることもあります。
治療方法は?
① 生活習慣の見直し
生活習慣の改善や食事療法の有用性を検討した報告は非常に少ないため確立したものはないのが現状です。機能性ディスペプシアのガイドライン(2021)では、可能な範囲で生活上のストレスを減らし、規則正しい食事、睡眠の質を高めることが良いとされています。
また、脂肪の多い食事を避け、適度な運動も行いましょう。喫煙者は禁煙により改善する可能性があります。飲酒やコーヒーに関しては、明確な結論が出ておらず、個々人に応じた対応が必要でしょう。
② 薬物学的治療
(1)胃酸の知覚過敏に対し、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB、H2RA)を使用します。
- PPI:エソメプラゾール(ネキシウム®)、ランソプラゾール、ラベプラゾール、オメプラゾール
- P-CAB:ボノポラザン(タケキャブ®)
- H2RA:ファモチジン(ガスター®)など
(2)消化管の運動を促進・調整する薬剤が有効です。
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:アコチアミド(アコファイド®)
- ドパミン受容体拮抗薬:ドンペリドン、スルピリド、メトクロプラミド
- セロトニン5-HT4受容体作動薬:モサプリド(ガスモチン®)
- 漢方薬:六君子湯、半夏厚朴湯、加味逍遙散など(エビデンスがあるのは六君子湯のみ)
上記の薬剤を服用しながら、生活習慣の改善を行ってもらい、症状の改善が見られれば薬剤を減量していくことを目指します。
当院では機能性ディスペプシアの診断・治療を行っております。
「胃もたれ」「早期満腹感」や「食後不快感」などの症状にお心当たりのある方などお気軽にご相談ください
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)