胆石について
~わたしの胆石、放っておいても大丈夫?~
検診などで「胆石」と診断される方が増えています。食事の欧米化、コンビニの普及やライフスタイルの変化も関係していますが、医療機器の発達により胆石を見つけやすくなったことも一因です。胆石は無症状のまま経過する方も多いため、「胆石がある」と言われた方は、どのタイプの胆石なのかを確認しておきましょう。
胆嚢(たんのう)とは
肝臓でつくられる消化液の一つである胆汁を濃縮して貯めておく風船のような「袋」です。十二指腸に食べ物が入ると収縮して胆汁を送り出す役割を持っています。胆汁は一日600mlほど作られています
胆石ができやすい人
学生時代は「5F」で胆石のリスクファクターを覚えました。
Forty(50歳)、Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)、Fertile(多産・経産婦)の5つです。
最近は男性で胆石ができる方も多いので、一概にこの通りではないのですが、女性の方は女性ホルモン(エストロゲン)の低下が胆汁酸の産生を減少させ、ホルモンの影響で体重も増えやすいため、閉経前後以降の方は注意が必要です。
胆石の種類:大きく2つに分類されます。
- 1. コレステロール系結石(全体の約60%~70%)
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コレステロールが主体となる胆石
※コレステロール系結石は、コレステロール純度や石の形成から、純コレステロール結石、混合石、混成石の3つに細分類されます。
- 2. ビリルビン系結石(全体の30%~40%)
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ビリルビンカルシウムが主体となる胆石、黒色石
どこから胆石はやってくる?
- 1. コレステロール系結石のでき方
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胆石のもとになる胆汁は、胆汁酸・ビリルビン・電解質(ミネラル)を含んだ消化液です。
肝臓で作られて胆嚢(たんのう)に一旦蓄えられて、濃縮されます。
胆汁に含まれる胆汁酸は、乳化作用とミセル形成作用をもっているため、脂肪の消化吸収を助けることができます。この「乳化作用」と「ミセル形成」は難しいかもしれませんが、簡単に言えば石鹸(せっけん)の力と同じです(界面活性剤)。手が油まみれになった時に、石鹸を使えば油が溶け出して吸収してくれるため、手を洗うことができます。胆汁酸(石鹸)には、脂肪分(油)を溶かしやすくして吸収する作用があります(胆石を溶かす治療はこの作用を利用しています)。
胆汁酸は脂質であるコレステロールが材料になっています。しかし、コレステロールの量に比べて胆汁酸とレシチンの混合ミセルが少ないとコレステロールがあふれ出し(過飽和)、胆汁中に結晶化(胆石)してしまいます。つまり、コレステロールが高くなる脂質異常症や糖尿病、肥満などでは胆石が出来やすくなるのです。また、加齢でも胆汁酸をつくる力が弱まるため、胆石は年齢とともに増えていく傾向があります。しかし、コレステロール結石には再び胆汁酸で溶解できる可能性が残っているのが特徴です。
- 2. ビリルビン系結石のでき方
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色素石ともいわれ、主にビリルビンカルシウム結石と黒色石の2つがあります。胆汁には胆汁酸の他にビリルビンも含まれています。ビリルビンとは赤血球が壊れた時にできる黄色素のことです(黄疸の原因もビリルビンです)。ビリルビンもコレステロールと同じように胆汁になる前は脂溶性で、肝臓でグルクロン酸抱合をうけて水溶性になります。ところが、何らかの要因で細菌感染をうけると元の不溶性のビリルビンに逆戻りして結晶化して石が形成されます。石になる時にカルシウムと結合するため、再度溶解することはありません。
黒色石はビリルビンの重合体ですが、現在でも成因は明らかになっていません。
様々なタイプの胆石があります
コレステロール結石石灰化がなく表面がツルツル
ビリルビンカルシウム結石茶褐色に層状の割面
黒色石黒色で無構造/不定形
胆石の診断
超音波検査(エコー検査)を行うことで胆石症は比較的容易に診断できます。手術の必要性などを検討する際に、より詳しい状態を把握したい場合には、CT検査やMRI/MRCP検査が行われます。
また、CT検査を行うことで胆石の「コレステロール純度」を予測することができます。
同じ石でも胆汁の通り道(胆道)のどこにあるかによって病名が変わります。胆嚢にある胆石(胆嚢結石)が胆道結石のうち約80%を占めます。胆嚢結石は無症状のことが多いですが、胆嚢の出口で石がつまり、炎症をおこすと胆嚢炎になります。胆嚢炎を起こすと右の肋骨の下あたりに痛み(右季肋部痛)が生じます。症状が軽い場合(慢性胆嚢炎)には、鈍痛や食後不快感(なんとなく気持ち悪い)を感じるようになります。急性胆嚢炎を発症した場合には、発熱を伴った右季肋部の激痛や嘔気・嘔吐が起こります。
また、総胆管に胆石がある場合には、胆汁の流れがせき止められることで黄疸(全身の皮膚や白目が黄色になる)や右季肋部痛が生じ、細菌が感染すると胆管炎を起こすことがあります。
胆石の治療
- 1. 無症状の場合
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胆石の数や胆嚢の状態にもよりますが、基本的には経過観察を行います。ただし、無症状の方でも年に1~2%の確率で「胆石発作」や「食後不快感」が起こります。とくに発見されてから3年間は、症状が出現しやすいとされていますので、胆石の性状(数、場所、大きさ)を超音波で経過観察しましょう。
- 胆石と胆嚢がんは関係があるの?
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胆石があると胆嚢がんを発症するという確固たる証拠は今のところありません。
しかしながら、胆石がある人の経過をみた時に、胆嚢がんを発症する割合は胆石がない人より高いとする報告、胆石を患っている期間が長く、結石が大きいほど胆嚢がんの発生率が高いとする論文は欧米中心に複数あり注意が必要です。
- 2. 慢性的な症状のある胆嚢結石の場合
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胆石溶解療法:
コレステロールの純度が高い結石には、胆汁酸とほぼ同じ成分のUDCA(ウルソ®)で溶かす治療法があります。15mm以下で石灰化がなく、胆嚢機能が良好である必要があります。溶解するまでは1年程かかり(1ヶ月1mm小さくなる計算です)、完全溶解率が低い(約20%)のが弱点です。副作用が少なく、急性胆嚢炎の発生率を下げて痛みを和らげる効果もあるため、症状が軽度で手術を望まれない方の選択肢になります。 -
胆嚢摘出術:
胆石だけを取り出しても、また胆石が再発する可能性高いため、胆嚢そのものを摘出する治療です。腹腔鏡下で行うのが一般的です。 -
ESWL:
胆石を衝撃波で破砕する方法です。コレステロール結石が対象になりますが、昨今はあまり行われていません。
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胆石溶解療法:
胆石の予防
胆石は生活習慣病でもあります。食生活や日々の行動を見直してみましょう。
- 脂質異常症(特に中性脂肪の高い方)は、治療を行いましょう。
- 動物性脂肪や炭水化物、糖質の過剰摂取は控えましょう
- 夜間の長時間にわたる絶食や極端な低カロリーダイエットは控えましょう
(食事をしないため胆嚢に濃縮した胆汁が貯まりっぱなしになります。) - くだもの、野菜、食物繊維や不飽和脂肪酸を摂るようにしましょう
- コーヒーやアルコールは胆石ができにくくなる飲み物ですが、他の病気を引き起こす事もありますので、適度に摂取しましょう。
当院では、超音波検査による胆石の診断や定期検査を行なっております。また、必要に応じてCTやMRI等の画像検査、胆石溶解療法を行なっております。右上腹部の不快感や腹痛がある、胆石と診断されたが最近検査を行なっていないなど、お困りの際にはお気軽にご相談ください。
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)