NALFD /NASH(ナッフルディー、ナッシュ)
NAFLDとはNon-Alcoholic Fatty Liver Diseaseの頭文字をとり、日本語では非アルコール性脂肪性肝疾患と訳します。昔からアルコール依存症で肝臓が悪くなることは良く知られていましたが、近年アルコール以外にも肝臓に付着した脂肪が炎症を起こし肝機能障害を生じることがわかってきました。これを非アルコール性脂肪肝炎 Non-Alcoholic Steatohepatitis(NASH)とよびます。
病態
なぜいまNASHが注目されているのでしょうか。
肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、肝臓の機能が少し落ちたくらいでは自覚症状はなかなか出現しません。肝炎が慢性的に起こり、肝臓の組織が無くなって繊維化を起こしから初めて様々な症状が出現し始めます。このように肝臓が繊維に置き換えられ硬くなった状態を「肝硬変」と呼びます。肝硬変になると症状がでてくるだけではなく「肝臓がん」ができやすい状態にもなってしまいます。
肝硬変の症状
- 腹水:おなかに水がたまり膨満します。
- 黄疸:皮膚や目にビリルビンが沈着し黄色くなります。
- 吐血:静脈瘤が食道など消化管にできることによります。
- 意識障害:肝臓が体の代謝物を解毒できず、血中アンモニア濃度が上昇し生じます。
肝硬変は、ウイルス感染が原因で生じるB型肝炎・C型肝炎やアルコール性肝炎が進むと起こることは以前より認識されていました。幸い、2010年頃よりウイルス性肝炎に対して画期的な抗ウイルス薬が開発され続けており、B型肝炎やC型肝炎に対して効果の高い治療を行えるようになりました。そのためウイルス性肝炎から肝硬変・肝臓がんになってしまう方は減少傾向にあります。
ところが一方、食事の欧米化や生活習慣の変化、社会的ストレスなどによる脂肪肝が増え、その数は2000万人にも及ぶと言われております。
以前は、非ウイルス性、非アルコール性の脂肪肝は、肥満の指標にはなるものの、肝硬変にまで至るものは極めて稀であるという考え方が一般的でした。しかし最近の研究により、こういった脂肪肝の中にも肝硬変を起こし得る脂肪性肝炎が急増していることが明らかになってきたのです。これが上述したNASHです。
脂肪肝の有病率は増加しており、日本を含むアジア人の場合は肥満体型でなくても発生する傾向があります(非肥満者の脂肪肝の有病率は7~20%)。NASHの方は、大腸ポリープおよび大腸癌、乳癌の発生頻度が増加するとされており(報告によりますが概ね2倍)、肝臓だけでなく他の臓器にも注意が必要です。
NASHがなぜ起こるのか(発生機序)は解明されていませんが、遺伝的な素因も関係するとされています。また、2019年論文雑誌「Cell」にミトコンドリアの機能異常とNASHの関連性を強く示唆する論文が掲載されました。斬新な切り口で今後の病態解明に期待が寄せられています。なお、ミトコンドリアは細胞に無数に存在し、生命活動を含めた様々な活動に必要なエネルギーを作り出す機能を担っています。 (Cell. 2019 May 2;177(4):881-895:Deficient Endoplasmic Reticulum-Mitochondrial Phosphatidylserine Transfer Causes Liver Disease)
診断
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)はアルコールによらない肝炎とされていますが、禁酒状態である必要はありません。飲酒量がエタノール換算で男性30g/日未満、女性20g/日未満であれば、「非アルコール性」に相当します。
- エタノール換算:飲酒したアルコール量(ml)× アルコール度数(%)× アルコール比重(0.8)
たとえば、アルコール度数5%のビール350mlの場合、350×0.05×0.8=14gとなります。これは意外と多いと思った方もいるのではないでしょうか。
超音波検査や血液検査などでNAFLD /NASHに罹患していないかを確認します。
NAFLDは組織学的に肝臓に脂肪が蓄積(肝細胞の5%以上)した状態を意味しますが、肝臓の細胞にダメージがない単純性脂肪肝(NAFL:Non-Alcoholic Liver)と炎症およびダメージを伴っているNASHに分類されます。NASHは慢性肝炎を起こし、繊維化していくことで肝硬変にいたるため、「繊維化の指標」が重要になります。線維化の指標には、FIB-4 indexとNFSのスコアリングシステムが用いられます。
- FIB-4 index : Fibrosis-4 index
(計算式)年齢×AST /血小板[10の9乗]×√ALT
※採血結果において血小板は10の4乗(万単位)で数えます。
- NFS:NAFLD fibrosis score
(計算式)−1.675+0.037 ×年齢+0.094×BMI+1.13×(糖尿病あり1、なしの場合0)+0.99×AST/ALT−0.013×血小板[10の9乗]−0.66×アルブミン(g/dl)
肝臓の繊維化をもっと詳しく知る必要がある場合には特殊な超音波検査(エラストグラフィ)やMRI(MRエラストグラフィ)を行います。これらの画像検査は有用ですが、確定診断が必要な場合には肝臓に直接針を刺し組織を採取する「肝生検」を行います。このような侵襲的な検査が必要になる前に肝臓の繊維化を止めることが大切です。
正常な肝臓の組織像
肝硬変により線維化がすすんだ組織像
治療
NASHに対する治療は、高血圧や糖尿病、脂質異常症を合併していることが多く、その基礎疾患と一緒に行われます。また生活習慣病と密接に関連しているため、食生活の見直しや適度な運動も推奨されます。肥満体型の方は、ダイエットも効果的です。NASH自体に直接効果のある薬剤は残念ながらあまり無く、ビタミンE内服療法が有効とされていますが保険適応外です。なお、肝臓庇護薬として代表的なウルソデオキシコール酸の内服は有用性が認められないことが明らかになっています。
- ●NASH
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- 高血圧の場合・・・ARB、ACE阻害薬
- 糖尿病の場合・・・ピオグリタゾン、GLP-1アナログ薬、SGLT2阻害薬
- 脂質異常症・・・スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
現在の肝臓の状態を調べてほしい、脂肪肝があるが何に気をつければよいかわからないなどでお困りの方は、当院へご相談ください。お一人お一人の状態にあった治療や生活指導等をご提案させて頂きます。
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)