食道裂孔ヘルニアについて
どんな病気ですか?
食道裂孔とは、食道が腹部へ入る際に通る横隔膜にある孔(あな)のことで解剖学的な名称です。
「腰椎椎間板ヘルニア」、「鼠経ヘルニア」などの病気を聞かれたこともあるでしょう。ヘルニアとは「何かが出ている」という意味であり、「食道裂孔ヘルニア」は食道裂孔から胃が飛び出ていることを意味します。
食道裂孔部には、食べたものや胃酸が食道に逆流しないようにする働きがあり、この部分を下部食道括約機構(Low esophageal sphincter: LES)と呼びます(詳しくはこちらをご参照ください)。
このLES部がゆるんでしまい、胃が飛び出てしまう病気です。LES部が緩む原因としては加齢だけでなく、慢性的な腹圧の上昇を起こす状態(肥満、きついコルセットや力仕事)などがあります。
どんな症状がありますか?
無症状の方も多いですが、胃酸の逆流を防止する働きが弱くなっているため、胃食道逆流症と同じような「胸やけ」や「口の中が酸っぱい/苦い(呑酸)」、「食道粘膜の炎症(びらん、潰瘍、狭窄)」を起こします。
どうやって診断しますか?
一般には胃カメラ検査で診断を行います。中等症以上の食道裂孔ヘルニアの場合は胸部や腹部CTで診断されることもあります(別の病気を調べるためにCTを撮像した際に偶然見つかることもあります)。胃透視(バリウム検査)でも診断可能なことがありますが、現在は食道裂孔ヘルニアの診断のために胃透視を行うことはありません。
正常所見
矢印部分が食道と胃の境界にあたり、食道胃接合部といいます。
食道裂孔ヘルニア
食道と胃の境界を食道側から見ています。境界部分が緩んでいます。
正常所見
境界部分を胃側から見ています。
食道裂孔ヘルニア
胸腔側へと胃の一部が飛び出ているため、内視鏡ではヘルニア部分が凹んで観察されます。
治療方法
食道裂孔ヘルニアは外科的手術以外では基本的に緩みを治すことができないため、逆流性食道炎が生じた場合などに症状に応じて治療を行います。
生活習慣の注意点
- 1胃の中に食べた物が長時間胃にとどまると逆流する機会が増えます。
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- 脂肪分の多い食事は胃からの排出が遅れます。
- 高浸透圧食と呼ばれる、特に甘いもの(あんこや饅頭、チョコレート)は胃の中にとどまりやすいです。
- 2下部食道括約筋(LES)が緩むと胃酸が逆流しやすくなります。
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- アルコール、炭酸飲料、喫煙、高脂肪食はLESが緩みます。
- 3胃にかかる圧力が高くなると、食道への逆流を起こしやすくなります。
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- 食事中のコルセットや前かがみの姿勢、食後すぐの筋トレや重いものを持ち上げる力仕事はお腹の中の圧力(腹圧)が上がるため、逆流しやすくなります。肥満は腹腔内圧の上昇などの原因となります。
- 大食い(ドカ食い)も胃の中の圧力が急上昇します。
- 4姿勢に注意して胃酸の逆流を抑えましょう。
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- 食べた後、すぐ横になるのは避けましょう。
- 症状がある時には就寝の際に頭を少し高くして寝ましょう。
- 5胃酸の分泌を誘発する食べ物の過度な摂取はやめましょう。
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- カフェインや柑橘類、香辛料などの刺激物は胃酸の分泌を活性化させます。
なお、コーヒー飲料はカフェインレスでもコーヒー自体に含まれるクロロゲン酸という物質が胃酸分泌を促進します。
- カフェインや柑橘類、香辛料などの刺激物は胃酸の分泌を活性化させます。
毎日毎日気を付けると疲れてしまいますので、症状のある時や、お薬での治療中は特に気を付けましょう。
当院では食道裂孔ヘルニアの診断・内視鏡検査・治療を行っております。
「胸やけ」や「口の酸味/苦味」などの症状にお心当たりのある方、検診で食道裂孔ヘルニアと診断された方などお気軽にご相談ください。
文責
ほその内科おなかクリニック
院長 細野 智子
- 医学博士
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- 日本消化管学会胃腸科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内科学会認定内科医
- 緩和ケア講習会修了
- 日本泌尿器科学会専門医(〜平成29年)