こんにちは。
今日は「帯状疱疹ワクチン」ついてです。
最近テレビで帯状疱疹ワクチンのCMが流れている影響か、診察中に帯状疱疹ワクチンについてご質問を頂くことが結構あります。私自身も患者さんへご説明はしているものの、論文等をしっかりと読んでいなかったので、自身の勉強も兼ねてまとめてみました。
帯状疱疹という病気・治療法について
詳しいことが知りたい方は
こちらをご覧ください
帯状疱疹ワクチンは2種類あります。
帯状疱疹は50歳を超えると発症率が急激に増加し、60歳以上では100人に1人、80歳までに3人に1人がかかる病気です。
そこで日本では、2016年より50歳以上の方を対象に帯状疱疹ワクチン接種が行われるようになりました。
今までは、従来からある生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン)しか接種できる注射薬がありませんでしたが、2020年より乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックスⓇ)が使用できるようになりました。
※左右にスクロールさせてご覧ください。
水痘・帯状疱疹ワクチン | シングリックスワクチン | |
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種類 | 生ワクチン(弱毒化ウイルス) | 成分ワクチン(遺伝子組み換えタンパク) |
接種回数 | 1回 | 2回 |
有効性 | 50〜60% | 80~90% |
有効期間 | 約5年 | 約10年(現時点で9年までしか結果がない) |
費用 | 8,000円 | 22,150円 × 2回 |
副反応 | 注射部位の腫脹、痛み、発疹(1.5%) | 倦怠感(28〜40%)、頭痛(21〜34%)、 発熱(約20%)、筋肉痛(27~41%) 局所の痛み・腫脹など ※新型コロナワクチンに類似 |
特徴 |
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① 弱毒生水痘ワクチン(製品名:乾燥弱毒生水痘ワクチン)
帯状疱疹の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus :VZV)を弱毒化したもので、お子さんの予防接種に使用する水痘(水ぼうそう)ワクチンと同じものです。
帯状疱疹は小さいころに水ぼうそうにかかり、その後、体の奥に潜んでいるウイルスが免疫低下により活発化してしまうのが原因と言われています。そこで、弱毒化させたウイルスをワクチンとして利用し、落ちた免疫力をアップさせるのです。
● 効果はどれくらい?
60歳以上38456人を対象にした大規模臨床試験(The shingles prevention study: SPS)によれば、その効果は調査期間の中央値3年で帯状疱疹の発症率を約51%減少させ、後遺症である帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia: PHN)を約66%減少させると報告されています(Oxman MN, et al., N Engl J Med 352: 2271-2284, 2005)。
ただし、年齢別にみると有効性が高かったのは60-69歳の約64%の減少率で、年齢が高くなるにつれ効果が弱くなり、70-79歳では41%、80歳以上では18%の減少率でした。また、持続性においては年々低下していき、接種後4年~7年で帯状疱疹発症率とPHN発症率を、それぞれ39.6%、60.1%減少、接種後7年~11年ではそれぞれ21.1%、35.4%減少させると報告されています(Clin Infect Dis 2015; 60: 900-9、Clin Infect Dis 2012; 55: 1320-8)。何%までを有効な期間と定義するかは難しいところですが、5年くらい、でしょうか。
● 副作用はどうなの?接種してはいけない人は?
予防接種に伴う副反応は、国内の第Ⅲ相試験によれば50.6%に副反応が認められるものの、その殆どが注射部位の発赤や、熱感・腫脹であり、倦怠感(1.5%)や発疹(1.5%)といった全身性の副反応は非常に少ないです。また、生ワクチンですので、原則として免疫抑制剤を服用している方には使用できません。
● 何回うつの?
1回接種で完了しますが、有効期間から考えると5~7年ごとに追加接種が必要と思われます。2016年より始まった制度のため決まった追加接種の指針は今のところありません。
② 乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(製品名:シングリックス®筋注用)
遺伝子組み換え技術による比較的新しいタイプのワクチンです(色々と話題になったファイザー・モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)とは全く違うタイプのワクチンです)。
遺伝子組み換え技術を用いて、VZVグライコプロテインE(gE)という水痘ウイルス感染の際に必ず発現するたんぱく質を利用します。このたんぱく質だけですと効果が弱いので、免疫効果を増強する物質(アジュバント)を一緒に組み込んでできた成分ワクチンになります。
● 効果はどれくらい?
生ワクチンより高い発症予防効果、帯状疱疹後神経痛の予防効果が証明されています。
50歳以上を対象とした大規模臨床試験(ZOE-50試験)と70歳以上を対象としたZOE-70試験では、帯状疱疹の発症率は50歳以上では約97%、70歳以上では約90%の減少を認めました(Lal et al.:N Engl J Med 2015; 372:2087-2096、Cunningham et al. : N Engl Med 2016; 375: 1019-32)。
● 副作用はどうなの?
先ほど述べたアジュバントは免疫反応を活性化させる物質のため、全身の反応が出やすくなっています。つまり、高熱を出したり倦怠感が強かったり筋肉痛を起こします。
新型コロナウイルスワクチンと同じように、全体的に70歳以上よりも、50歳~60歳代のお若い方に副反応が強く表れる傾向があります。
主な副反応として50歳以上では、筋肉痛41%、疲労40%、頭痛34%であったのに対して、70歳以上では、疲労28%、筋肉痛27%、頭痛21%でした。また発熱も約20%みられます。
生ワクチンではないため、免疫機能が低下した状態の方にも使用できます。
● 何回うつの?
2回接種が必要です。1回接種のみでは残念ながら効果が半減以下のため、2回受けるようにしましょう。追加接種は、現時点での追跡試験結果によると必要ないでしょう(もしくは20~30年後、とか)。
どちらのワクチンを受ければいいの?
より確実に帯状疱疹を予防するという目的ではシングリックス®の方がよいと思われますが、2回接種が必要で副反応がやや強め、新薬のため高額なことが欠点となります。臨床試験から考えると60~70歳あたりまでは生ワクチンでもある程度の効果が期待できるため、水痘生ワクチンは経済的に安価で副反応も少ないため良いかもしれません。ただし有効性の持続期間が短いため5~7年で追加接種が必要になると思われます。任意の予防接種ですので、ご自身で良いと思われる方を選びましょう。