こんにちは。
そろそろ梅雨明けでしょうか。日中の暑さが増してきましたね。
皆様こまめな水分摂取、日中はだるさを感じたら無理はしないようにしましょう。
今日のトピックスは「食中毒~主にカンピロバクター腸炎 パート1」です。
伝えたいことを全部盛り込んでしまって…、いったい何人の人が最後まで読んでくれるんだろうかってくらい長くなってしまいました。しかもまだパート1。
消化器内科医としては、カンピロバクター腸炎に対しては思うところもあり、削れるところがないのです…。
さて、梅雨の時期から夏にかけて、細菌による食中毒の発生率が高くなります。
皆さまお分かりの通り、高温・多湿の気候が原因です。実は食中毒にも時代の変化があり今と昔では主な原因菌が異なります。
昭和の頃は、手で握ったお弁当のおにぎりなどによる黄色ブドウ球菌、お魚の刺身などによる腸炎ビブリオ菌が原因菌の主流でした。しかしながら昨今は、例えば保冷剤付きのお弁当箱など衛生管理への関心が高まったこともありこの2種類の菌による食中毒は著しく低下しています。
代わりに、平成以降の細菌性食中毒は圧倒的にカンピロバクターが原因のものが多くなっています。下のグラフは兵庫県で発生した食中毒発生件数の推移です。報告のあった件数なので患者数はもっと多くなります。ノロウイルスとカンピロバクターでワースト2を独走中ですね。ちなみに、ノロウイルスは冬に流行します。
※兵庫県HPより抜粋:
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf14/syokutyudoku.html
令和2年以降はコロナ禍で外食する機会が少なかったため食中毒の発生件数も減っていますが、新型コロナウイルスが5類に分類された今年の夏は恐らく増えてしまうのでしょう。
「カンピロバクター」はどうやって食中毒を起こすのでしょう?
やっと本題のこの「カンピロバクター」はどうやって食中毒を起こすのでしょう?
そもそもどこにいる菌なのでしょう?
カンピロバクターは鶏、牛、羊などの腸の常在菌です。これらの動物の消化管に菌がいても悪さはせず、鶏たちは無症状です。人間の腸に感染をすると発熱や下痢などの悪さをするわけです。
代表的な感染源となる鶏を例にあげますと、カンピロバクターに感染している鶏が産んだ卵にはカンピロバクターは居ません。つまり、ひよこの間はカンピロバクターは腸の中にいないのです。
いつ、どこからカンピロバクターに鶏たちが感染してしまうのかは今のところ分かっていません。昆虫や肥料などが推測されています。そして、一旦1匹の鶏が感染しますと、水平感染といって糞などを通じて周りの鶏にも感染してしまうのです。
また、鶏の肉処理場内での処理時に感染が広まってしまうことも原因の一つです。
ここで言いたいことは、「鶏肉は結構カンピロバクターに汚染されている」という事です。
2021年に報告された名古屋市保健所の汚染状況調査を引用させて頂きますと、実際に店舗で提供されている鶏のたたきや刺身のカンピロバクター陽性率は41%でした。他の報告でも20~100%とばらつきはあるものの、それなりに生の鶏肉にはカンピロバクター汚染はあるというのが事実でしょう。
鶏肉を例に挙げましたが、牛肉・豚肉・羊肉・馬肉も通常の飼育・処理を経ますとカンピロバクターに限らず他の細菌(サルモネラ・大腸菌(O-157))やウイルス・寄生虫に汚染されている可能性があるわけです。 そこで、厚労省が制定している食品衛生法では豚肉の生食は全面禁止、牛肉・馬肉は生食用にするための細かい決まりがあります。羊肉は見つけられなかったのですが、恐らく生で食べる事例が無いからかもしれません。
しかしながら、食品衛生法では生食用の鶏肉の決まりがないのです。スーパーで「生食用」鶏肉を見かけることはまず無いと思いますが、原則加熱調理を前提として流通しているからです。基本的にどういったものを鶏肉の「生食」として出すかは店舗・販売者に委ねられているのですが、食中毒が発生した場合は営業停止などの行政処分を受ける可能性があります。
ただし、最近は居酒屋などに行くと結構「鳥刺し」「鳥のハツや肝のお造り」をみることがあると思います。昭和生まれの私の実感としては、昔はこんなに鶏の刺身をだす店あったかな?と思います。
仕入れ先は私には知る由もありませんが、恐らくは鹿児島や宮崎県から「生食用」鶏肉を仕入れているのでは?(と信じたい)と推測されます。
鹿児島県や宮崎県には古くから鶏肉を生で食べる文化があるようです。もちろん南九州の鶏だけカンピロバクターが居ないわけではないので、両県とも独自に生食用鶏肉の加工基準があり、それを満たすものだけが生食用の表示ができるようです。どちらもネットで見ることができるので読んでみましたが、かなり細かく制定されています。
※鹿児島県HP「生食用食鳥肉等の安全確保について」:
https://www.pref.kagoshima.jp/ae09/kenko-fukushi/yakuji-eisei/syokuhin/joho/niwatori_namasyokuh30.html
ただ、先ほど記したようにカンピロバクターに汚染している鶏を最初に見分ける手段がない(症状が一切でない)ので、もしカンピロバクターに汚染されている鶏肉だったとしても、低温で処理する、消化管を傷つけないようにするなど極力鶏肉についた菌数が少ない状況で消費者に提供できるよう、そして、仮に1羽にカンピロバクターが居ても他の鶏には汚染しないで処理できるよう工夫されていました。
……生の鶏肉、私は食べたことがありませんが、きっと美味しいんだろうなと思います。
どうしても「鳥刺し・鳥のたたき」が食べたい方は、仕入れ先を確認し、お食事が提供されたら冷たいうちにすぐに食べる!しかないと思います。しかし、鹿児島県の規定でも内臓にあたる「肝や砂肝」などは生食に向かないと記載されていますので内臓はやはり避ける方が良いでしょう。ご高齢の方・お子さんはすべての部位を避ける方が良いでしょう。
火の通った焼き鳥・砂肝のバター焼きも美味しいですよー!
さて、日本の鶏生食事情のような内容になってしまい、肝心のカンピロバクター腸炎自体にまだ触れていませんが、いい加減長すぎる!のでパート2に書こうと思います。
カンピロバクター腸炎は「ギランバレー症候群」という他の腸炎にはない後遺症をもたらすことのある病気なのでそれはそれでしっかり書きたい(肝心の症状を説明したいがここまでスクロールしてくれる人が少なさそう)のです。
お付き合いくださりありがとうございました。